柔道の組み手を振り返る試合ノートの書き方

この記事の内容
地区大会の2試合目。「始め」の直後に右袖を取られ、こちらが襟に手を伸ばす前に、相手の左手が上から奥襟に届いていました。数秒後には内股で崩され、試合が終わって残っているのは「組み負けた」という感想だけです。
柔道の試合ノートに書くのは、この最初の数秒です。相手がどの手で、どこを、どの順に持ったのかがわかるように残しておきましょう。
地区大会や県大会では、一度組んだ相手とまた当たることも珍しくありません。道場で乱取りをする相手も、毎週だいたい決まっているのではないでしょうか。同じ相手の記録を一か所にためていく考え方は対戦相手帳をつける理由で紹介しています。柔道でまず書く価値があるのは、組み手争いです。技を掛けるには、まず組み手を持たなければなりません。しかも組み方は相手ごとに違い、試合が始まって数秒で見えてきます。ここからは、試合で何を見て何を書いておくとよいか、そのおすすめです。
組み手争いで見ておくこと
はじめに、相手が右組みか左組みかを書きます。右組み同士・左組み同士(相四つ)と、右組み対左組み(ケンカ四つ)とでは、組み手争いの中身が違ってきます。すんなり持てる組み手と、争わないと持てない組み手が変わるからです。
一つの試合だけで「この人は左」と決めてしまわないでください。途中で組み方を変える相手もいるので、その日はどうだったかを書いておきます。
次に、最初の一手です。見るところは、五つあります。
- どこを 袖、前襟、奥襟、背中、認められている場面での帯のうち、どこを先に取りに来たか
- どちらの手で 右手か左手か、クロスグリップのような組み方だったか
- こちらが持ったときの反応 切ってくるのか、そのまま持ち直すのか、気にせず掛けてくるのか
- 掛けるタイミング 片手で持った瞬間に掛けてくるのか、両手がそろうまで待つのか
- 持ってから掛けるまで 長いか短いか
一言ずつ書いておけば十分です。この数点だけでも、次に同じ相手と組むときの準備は具体的になります。
得意技と投げる方向
相手の得意技が何かは、たいてい試合の途中でわかります。書いておきたいのは、その技でどの方向へ投げてくるかです。前か後ろか、相手から見て右か左かまで書きます。
内股が得意だとわかったら、もう少し掘り下げましょう。
- 技の前 どんな崩しやフェイントが入るか
- 連絡技 内股から小内刈への連絡技があるか
- 攻める側と釣り手の側 攻める方向が、釣り手で持っている側と同じか
ここまで書いてあると、乱取りで再現しやすくなります。三つ目は、後で紹介する研究が注目した点です。記録する手間は、ほとんどかかりません。
技が掛からなかった後の動きも、同じくらい大切です。そのまま亀になるのか、すぐ立ち上がるのか、返してくるのかを書いておきます。「内股が外れると亀になって『待て』を待つ」と書いてあれば、次の試合で寝技にどこまで付き合うかを考えやすくなるでしょう。
寝技・「指導」・試合の終盤
寝技では、相手が何を狙っていたかを書きます。
- 亀を返しに来る
- 袈裟固や横四方固などの抑え込みに入る
- 絞め技や関節技に持ち込もうとする
- 自分からは動かず、「待て」を待つ
見えなかった場面は空欄でかまいません。
「指導」は、どちらが、どんな理由で受けたかを、自分の理解で書きます。審判の基準は、ルールの改正で変わることがあります。条文の言葉ではなく、「組み合わずに離れたところで指導」「消極的として指導」のように、場面がわかる書き方にしておきましょう。
残り時間が少なくなったときや、ゴールデンスコアに入ったときに、相手の動きは変わったでしょうか。これは、実際にそうなった試合でだけ書きます。
自分のことも書く
相手のことだけを書いたノートは、次の対戦で使いにくくなります。自分について残しておきたいのは、次の四つです。
- 組み負けた場面 どこで引き手の取り合いに負け、いつ組み手を切られたか
- 自分の「指導」 何を理由に受けたか
- 掛けに行けなかった時間帯 いつ足が止まっていたか
- 一度でもうまくいったこと 技でも組み方でも、何が通ったか
最初の印象と食い違う場面こそ、次に確かめる価値があります。
書くのは動作で、気持ちの推測ではありません。「技ありを取られた後、掛けてこなくなった」は記録になりますが、「怖がっていた」は記録になりません。
何をもとに書いたかを添える
メモには「記憶」「仲間の動画」「コーチの話」のように、出どころを添えます。回数を思い出せなければ「何度か」でかまいません。数字を作らないほうが、後で読み返すときに迷わずに済みます。
2試合続けて同じ組み方だったとしても、それはまだ仮説です。反対の例があれば一緒に書き、動画があれば見直しましょう。
試合の記憶がどう薄れていくかは別の記事で扱っています。ただ、何時間以内に書けば大丈夫という決まった期限はありません。試合の帰りに書けるなら書き、無理なら翌日の練習の前に書いておきます。
ノートに設ける欄
この記事でいちばん勧めたいのは、どの試合のノートにも「うまくいったこと」「うまくいかなかったこと」「次回やること」の三つを書いておくことです。柔道に限らず、武道や格闘技、ラケット競技のどれをとっても、この三つが最も大切だと考えています。もっとも、後で紹介する研究のどれも、ノートを書くことが柔道の成績に影響するかを調べてはいません。
「試合の情報」と「相手の戦い方」は、三つを書く前提になるので、先に置いています。
- 試合の情報 大会名と回戦(または乱取り)、相手の名前、階級、相手と自分の組み方(相四つかケンカ四つか)、何をもとに書いたか
- 相手の戦い方 最初に取りに来た場所と手、こちらが持ったときの反応(切る・持ち直す・そのまま)、片手で掛けるか両手がそろうまで待つか、持ってから掛けるまでの時間。よく掛ける技と方向、その前の崩しやフェイント、攻める側と釣り手の側が同じか、掛からなかった後の動き、寝技で狙うもの
- うまくいったこと 技や組み方、守りのうち、一度でも通じたもの
- うまくいかなかったこと 組み負けた場面、受けた「指導」と理由、掛けに行けなかった時間帯
- 次回やること 変えることを二つと、それぞれをやめる条件
二つと書きましたが、それより多くてもかまいません。ただ、三つも四つも抱えて畳に上がると、頭の中が作戦でいっぱいになってしまいます。一試合で試すのは、一つか二つくらいがちょうどいいでしょう。
空欄や「不明」があっても問題ありません。紙に描いた畳に印をつけるにせよ、アプリの図にピンを置くにせよ、その場所で何が起きたかを一言添えましょう。「ここで奥襟を取られた」「ここで亀になった」という程度で足ります。印だけでは、後で読んでも試合を思い出せないのです。
記入例:袖を取られ続けた地区大会の2試合目
次の記入例は架空のもので、実在の選手の記録でも研究データでもありません。書き方を示すために作りました。
試合の情報 地区大会、73kg級の2試合目。相手はAさん。以前に一度当たっている。相手は左組み、こちらは右組みでケンカ四つ。記憶と、道場のBさんがスマホで途中から撮ってくれた動画から。回数はわからない。
相手の戦い方 最初に右手でこちらの右袖を取り、次に左手を上から奥襟へ。両手がそろうとすぐ掛けてきた。こちらが襟を持っても切りに来ず、袖を離さないまま掛けてくる。ほとんどが左の内股で、前へ。前かがみで防ぐと小内刈。どちらも相手から見て左方向で、釣り手で持っている側と同じ。内股が掛からないと亀になり、「待て」がかかるまで動かなかった。
うまくいったこと 襟だけ持った状態から大内刈に入り、一度はもう少しでポイントというところまで崩せた。一方的に攻められていたわけではない。
うまくいかなかったこと 毎回、先に襟を取りに行った。その間に右袖を取られ、袖の取り合いはずっと負けていた。組み合わずに離れたところで、消極的として「指導」を一つ(自分の理解)。
次に当たるときに試すのは、この二つです。
- 先に袖を取りに行き、相手の右手にこちらの袖を持たせない。袖を持てたら、両手がそろうのを待たずにそこから掛ける。 相手が襟から取りに来るように変えていたら、この作戦はやめます。こちらが技に入るのが遅くて間に合わないときも同じです。
- 相手が亀になったら、練習している亀の返し方を一つだけ試す。 すぐに立ち上がられたり、「待て」が早かったりしたら、寝技に力を使わず立ち技に戻します。
この二つは、次に当たる前にコーチと一緒に読み、試合の後に結果を書き足します。覚えている数回のやり取りから、次も同じことが起きる確率まではわかりません。次の試合で試す仮説として扱ってください。
トップ選手の試合を調べた研究から
組み手争いは、選手やコーチの経験談だけでなく、試合を観察した研究でも扱われています。ここで紹介する4本の論文は、どれもトップ選手の試合を対象にした観察研究か、その整理です。
グラナダ大学の Javier Courel-Ibáñez らは、サンパウロ大学とニシュ大学の研究者とともに、International Journal of Performance Analysis in Sport に組み手と攻める側の関係を調べた2014年の観察研究を発表しました。対象は、世界ランキングのポイントが付く12大会、242試合に出た男女のトップ選手です。
報告された傾向は、次のとおりです。
- 自分の組み手と同じ側へ攻めた場合にスコアと勝利につながりやすく、この傾向は性別や階級に関係なく見られた
- 組み方の組み合わせ別では、ケンカ四つで同じ側へ攻めた場合が最も効果的で、とくに軽量級で目立った
- 相四つで同じ側へ攻めた場合や、攻める側だけが組み手を持っている状態での攻撃も、勝利と関連していた
ただし、トップ選手の試合を観察したもので、地域の大会に出る選手で試した実験ではありません。「いつも組み手側に攻めればよい」という意味でも、次の試合で自分に起きる確率を示すものでもありません。
ノートに取り出せる項目は、相手がどちら側を持つか、どちらへ攻めるか、その二つが一致しているかの三つです。この研究でも相四つとケンカ四つは分けて分析されているので、組み方の組み合わせも一緒に書いておきましょう。
サンパウロ大学の Daniel Brandão Kashiwagura と Emerson Franchini は、Revista de Artes Marciales Asiáticas に組み手争いの研究を集めた2022年のスコーピングレビューを発表しています。2020年12月までの英語文献286件から41件を選んで整理したものです。
まとめられていたのは、こうした傾向です。
- 最もよく使われていた組み手は、襟と袖だった
- 最も多い組み方の組み合わせは、ケンカ四つだった
- 経験のある選手ほど、道着を持ってから掛けるまでの時間が短かった
- 男子、とくに重量級の選手は長く持ち、両襟の守備的な組み手を多く使っていた
現行ルールでは組み手を持つことが投げる前提になる、とも述べられています。主にトップ選手を観察した研究を見渡したもので、示されているのは集団としての傾向です。一人ひとりの相手に当てはまる決まりではありません。
この平均像から、目の前の相手がどうずれているかを書くのが実用的な使い方です。最初の組み手からすぐ掛けるのか、両手で長く持ってから動くのかを書きます。背中を持つ、クロスグリップ、帯を持つといった標準的でない組み手を使う相手なら、それで何をするのかまで残しておきたいところです。
同じサンパウロ大学の Franchini らは、Perceptual and Motor Skills に技の種類と方向を比べた2008年の研究を発表しています。1995年から2001年の世界選手権とオリンピックのメダリストのうち、各階級で最も成績のよかった17人と、それ以外のメダリスト16人を比べたものです。上位の17人は、より多くの種類の技で、より多くの方向へポイントを取っていました。技の数と方向の多様さは、勝利やスコアと相関していました。
2008年の研究で、対象はトップのメダリストだけです。しかも、その後のルール変更より前の試合を扱っています。現在のルールや地域大会の結果として読むのではなく、方向を記録する理由を示した古い研究として読んでください。
得意技の名前だけでなく、どの方向へ攻めてくるかを書く根拠はここにあります。一つの技を一方向に掛けてくる相手と、複数の技を複数の方向に掛けてくる相手では、準備の仕方が違うからです。
フローニンゲン大学とフローニンゲン大学医療センターの Suzan Schoof らは、International Journal of Sports Science & Coaching に競技レベルを分ける特徴を整理した2024年のシステマティックレビューを発表しました。整理の対象は、競技レベルの違いに関わる特徴を調べた23本の研究です。組み手争いの特徴で競技レベルの違いを見分けられることには、強い根拠があるとまとめています。上位の選手の特徴として挙がったのは、相手を投げる力と技の多様さでした。
才能発掘の観点から観察研究を整理したレビューで、どの組み手を取るべきかまでは述べていません。組み手争いをノートで丁寧に追う理由にはなっても、試合で何をすればよいかの答えにはならないのです。
次の対戦までにコーチと確かめること
次に同じ相手と当たる前に、試すことを二つに絞ってコーチにも見てもらいましょう。試合が始まったら、前回の組み方が今回も同じかを早い段階で確かめます。相手が組み方や階級を変えていたり、こちらの技の入りが前回と違ったりすれば、メモにこだわる必要はありません。
何人かの相手のページがたまったら、見比べてみましょう。相手が変わっても、袖を取られる場面が繰り返し出ていないでしょうか。同じ場面が何度も出るなら、コーチに相談して、乱取りや打ち込みで確かめる組み手の課題を決めます。「左組みの相手に右袖を取られてから、奥襟を持たれるまでの間に何ができるか」のように具体的な問いなら、練習相手に同じ組み方を真似してもらえるはずです。
毎週組む練習相手にもページを作る考え方は、柔術の練習ノートの記事で扱っています。振り返りと競技力の関係を調べた研究も別の記事で紹介していますが、ノートを書けば勝てるようになる、とまで言えるものはありません。
OpponentBook は、こうした記録を相手ごとのページにまとめる対戦相手帳です。柔道では、試合場を描いた競技図にピンを置いてメモを添えられます。「立ち技:組み手」「崩し」「寝技:袈裟固」「寝技:亀(防御姿勢)」といった名前の付いたポジションでも、図の座標とは別に記録できます。ノートはまるごと無料です。
同期した記録は、自分で接続したストレージに保存されます。OpponentBook のアカウント用データベースにノートのコピーは保存しません。自分で AI の処理を頼んだときは、必要な内容が OpponentBook のサーバーを経由して外部の AI 事業者に送られます。任意のエンドツーエンド暗号化(E2EE)をオンにすると、暗号化された記録はストレージ事業者にも読めません。写真・動画と、ファイル名などストレージ事業者に見える情報は、この保護の外にあります。相手について遠慮なく書くノートなので、保存先と AI 処理、暗号化の説明も読んでおいてください。
今夜、いちばん最近の試合か乱取りを一つ思い出してみましょう。まずは、相手が最初にどの手でどこを持ったか、その後に何が起きたかを書いてみてください。うまくいったこと、うまくいかなかったことも一言ずつ添え、次に試すことを二つ選びます。その数行から、相手のページが始まります。


