個人競技の選手に「対戦相手ノート」を勧める理由
フェンシング、卓球、柔道、バドミントン、ボクシング。個人競技を続けている人なら、たぶん薄々気づいているはずです。対戦する顔ぶれは、だいたい決まっている、ということに。
地方大会の世界は狭く、全国区でも思っているより狭いものです。3月の大会で自分を負かした選手とは、秋の大会でまた当たります。そのとき、前回の対戦から何かを持ち越せているか。それとも、また手ぶらで向き合うのか。差はそこにしかありません。
記憶は、思っているより早く消える
8か月前の試合のことを、どこまで思い出せるでしょうか。スコアはたぶん覚えています。悔しさも覚えているでしょう。ただ、本当に役に立つ部分 — ずっと通用していたあの攻め、終盤にようやく見えた相手のクセ、「次はこうしよう」と心に決めたはずの修正点 — は、数日で薄れていきます。
指導者の世界では、これは昔から常識でした。ボクシングのセコンドは相手のノートをつけ、卓球の代表チームは映像を蓄積し、フェンシングのコーチは試合の合間に「あの選手、入りは毎回手首へのフリックだぞ」と耳打ちします。情報戦はずっと競技の一部です。ところがアマチュアやクラブのレベルでは、この情報戦を記憶だけで戦っている。つまり、かなり分の悪い戦い方をしているわけです。
いちばん安上がりなアドバンテージ
対戦相手ノートの中身は、名前のとおりです。相手ひとりにつき1ページ。対戦するたびに書き足す。長文である必要はまったくなく、次の3つに答えれば十分です。
- 効いたこと。 全部ではなく、次も使うと思える2〜3個だけ。
- 通じなかったこと。 3回試して3回とも対応された、あれ。
- 次に覚えておくこと。 試合2分前の自分が読んで役に立つ形の、ひとこと。
試合の記憶が残っているうちに、30秒だけ書く。習慣としてはそれだけです。ただしワンシーズン続くと、これは才能では埋まらない差になります。自分の出場する大会の顔ぶれ全員についての、非公開のスカウティング資料。しかも書いたのは、自分の全試合を見てきた唯一の人間 — 自分自身です。
このノートは、自分自身の記録にもなる
見落とされがちなのは、ここからです。20件も書きためたころ、ノートに浮かび上がるパターンは、相手のことだけではなくなります。「通じなかったこと」の欄を読み返すと、違う相手のページに同じ一文が繰り返し出てくることに気づくはずです。それは相手の情報ではなく、自分の情報です。しかも一日の調子の悪さでは言い訳できない、時間をかけて積み上がった正直な記録です。
同じ技に2回引っかかるのは不運かもしれません。でも、自分の字で5回書いてあったら、それはもう練習メニューです。
紙のノートでも始められます
紙のノートは立派な出発点で、実際そうしてきた選手も大勢います。ただ、限界もすぐ来ます。検索ができない。動画が貼れない。そして、対戦表が貼り出されて「あの3人の情報を10分で思い出したい」というときに、たいてい手元にありません。
OpponentBook を作ったのは、このノートをきちんと続けられる道具が欲しかったからです。相手ごとのページ、ピストや卓球台の図面へのピン、写真や動画の添付、デバイス間の同期。しかも保存先は自分のクラウドストレージなので、中身は運営を含めて誰にも読めません。ノート機能はすべて無料で、期限もありません。
とはいえ、正直なところ、道具は何でもかまいません。今夜、直近の対戦相手について、先ほどの3つの質問に答えてみてください。秋の自分が、きっと感謝します。